「遍参とは」この十方世界のすべては、そのままあるがままなる一箇の人間のすがたにほかならない。そこにまなび徹するのが遍参というものである。つまり遍参とは、石が大きければおおきいまま、石が小さければ小さいまま、石はそのままに動かさずして、大は大とまなび、小は小ときわめるのである。それを、ただあれもこれをもと参見するのは、まことの遍参というものではない。遍とはいうものの、そのなかにいろいろの変化があるのが遍参である。地を打つときはただ地を打つ、それが遍参である。ひとつ地を打ったかと思うと、次には空を打つ、さらには四方八方というのは、遍参ではない。倶胝は天竜和尚に参見して、一指頭の垂示を得たという。それが遍参である。それからのちは、倶胝は、いつもただ一指を立てたという。それが遍参である。(道元:正法眼蔵・遍参)