「智慧の力とは」智慧の力というものは、無時限の過去よりの仏の力で、一朝一夕にしてなるものではない。この仏の智慧の力は、世の船が人々を渡すことができるようにこの智慧の力の船を得ることによって迷える人が仏道の海を渡って正覚の彼岸に到ることができるのである。だから法華経に「渡るに船を得るが如し」ととかれている。その意味は、迷いの此の岸から、正覚(さとり)の彼の岸にゆくには、なんとしても仏道なる海を渡らねばならない。海を渡るには慧力すなわち仏智の力である船の力借りねばならない。船の力は渡ることになる。智慧の力のあるところには、春の氷は自ずから消えてゆくのである。(道元:正法眼蔵・三十七品菩提分法)