「仏向上事とは」いわゆる仏向上事とは、仏にいたりてすすみてさらに仏をみるなり。衆生の仏をみるに同じからず。しかあればすなわち、見仏もし衆生の見仏とひとしきは、見仏にあらず。見仏もし衆生の見仏のごとくなるは、見仏錯なり。いはんや仏向上事ならんや。(「仏をこえるということ」は、仏にまで到ってさらに一歩すすめ、そこでまた仏をみるのである。それは衆生の見る仏とべつものの仏ではない。だがしかし、仏を見るといっても、もし衆生が見仏といっているのとおなじでは、それはほんとうの見仏ではない。もし衆生のいう見仏と同じだったら、それは誤れる見仏である。ましてやそれは「仏をこえるということ」というわけにはいかない。(道元:正法眼蔵・仏向上事)