「仏智あるものか仏道を聞けばたちまちそれを信じて理解するということ」「六祖大鑑禅師は昔は樵夫でであった。僧堂で坐禅に親しみ、落ち着いて古仏の教えを学んで修行するという機会はなかった。また仏道の師について修行する事も無かったであろう。ところがあるとき街頭で金剛経の「応に所住する所無くして其の心を生ず」の一語を聞いて発心した。これは自分で期待したことでもなく、他人が勧めたことでもない。幼いときに父を亡くし成人してからは母を養っていた。六祖はみずからの衣の中(心)にかくれている一箇の明珠〘仏道)の光が天地を照らし輝くかすほどの力である事をしらなかった。しかしこのことを発見した六祖は、急に発心してついに老婆を捨ててよき仏道の師を尋ねあるいたのである。親子の恩愛は重い。しかし、六祖は仏道を重く恩愛をすてたのである。 (道元:正法眼蔵・恁麼)