四祖大医道信のこと」「唐の高宗の永徽2年、閏9月4日のこと、四祖禅師は門人を集め誡めを説いて言った。「全てもろもろの存在は、みなことごとく迷いを脱している。汝らはそれぞれみずからの心をうちにひそめ、仏の教えを未来に伝えるがよい。」といいおわると安坐したまま亡くなった。寿は72歳であった。すべてもろもろの存在は、ただ空であるのみではない。存在が存在でないわけではない。みことごとく生滅の法にしたがって存する存在である。生ける時には、生ける時の行持があった。すでに死してからは、死せる時の行持があった。生きている者は必ず滅するのみと学ぶのは狭い見解である。また、すでに死せる者には何の知覚もないと考えるのも見識がせまいからである。仏道を学ものは、そのような小さな見解・見識になずんではならない、生ける者の滅してなお不滅なるものがあり、死せる者なお思うところがあってよいはずである。(道元:正法眼蔵・行持下)