「皇帝の鏡の事その2」「車を駆っていた皇帝は、膝行して崆洞にすすみ、広成子に道を問うた。その時、広成子はいった。「鏡はこれ陰陽の本、身を治ること長久である。これにおのずから三つの鏡がある。いわく天、いわく地、いをく人である。この鏡は、視ることもなく、聴くこともない。心を内にいだいて静なれば、身はまさにおのずから正しい。汝もまた、必ず静に、必ず清らかにして、汝が身を労することな、汝が心を揺るがすことんれりば、すなわち以て長生することをうるであろう。」むかしは、この三つの鏡をもって、天下を治めた。この大道に明らかなる者を、天地の主とするのである。俗の言にも「太宗は人を鏡とした。天下の治乱はすべてこれによって知った」という。この鏡の一つを用いたのである。(道元:正法眼蔵・古鏡)
原文「軒轅皇帝膝行、進崆洞、遠道乎広成子。干時広成子曰、「鏡是陰陽本、治身長久。問有三鏡、云天、云地、云人。此鏡、無視無聴。抱神以静、形将自正。必静必静必清。無労汝形、無揺汝精。乃可以長生」むかしはこの三鏡をもちて、天下を治し、大道を治す。この大道にあきらかなるを、天地の主とするなり。俗のいはく、「太宗は人をかがみとせり、安危理乱、これによりて照悉するといふ」三鏡のひとつをもとゐるなり。」