「だが、玄沙は、それを評して「老和尚のかかとは、まだ地についていない」といった。そのいうところは、老婆といい、老和尚といっても、必ずしも雪峰のことではあるまい、だが、雪峰もまた老漢であろうから、足のかかとというは、いったい、どこのことだと問うべきところである。では、まず、足のかかととは、何をいっておるのかを究明してみるがよい。究明してみるというのは、正法の眼目をいうのか、虚空をいうのか、大地をいうのか生命をいうのであるか、また、足のかかとには幾箇あるのか、一箇であるのか、半箇であるか、それとも百千万箇あるものか。そんなふうに努めて学がよいのである。(道元:正法眼蔵・古鏡)

原文「玄沙いはく、「老漢脚跟、未点地在」いはくのこころは、老漢といひ、老和尚といへども、かならず雪峰は老漢なるべきがゆゑに。脚跟といふはいづれのところぞと問取すべきなり。脚跟とは,正法眼蔵といふか、虚空をいふか、尽地ををいふか、命脈をいふか。幾箇あるものぞ、一箇あるか、半箇あるか、百千万箇あるか。恁麼勤学(いんみごんがく)すべきなり。」