「看経の作法」いまも仏祖の門にあっては、看経の作法はさまざまである。ある時は施主が寺に詣でて、衆僧に看経をお願いする。ある時は、僧に乞うて、常に経を読んでいただくことをお願いする。また、ある時には、衆僧が自ら発心して看経することもある。さらに、そのほかにも、僧衆が先に逝った僧のために看経することもある。施主が寺に詣でて僧主に看経を請うたときには、当日の食事時から、堂司があらかじめ、僧堂の前や諸寮のなかに看経の札をかける。食事が終わったのち、拝席を聖僧の像の前に敷く。時刻がくると僧堂の前の鐘を三回打つ。あるいは一回打つ。それは住持の指揮にしたがう。鐘がおわると、首座・大衆が、袈裟をまとうて僧堂に入り、自席について正面に向かって坐る。続いて住寺が入堂し、聖僧に向かって合掌し、焼香をし、その席に坐する。ついで若い僧が経を引いてくる。その経は、あらかじめ庫裏において準備し、数もそろえておいてそれを配る。その経は時には、経函ごとに、時には経台にのせて持参する。そこで衆僧が経をいただいて、披いて読みはじめる。その時、知客はまちかまえた施主を連れて僧堂に入る。施主は僧堂の前までくると、手炉をとりそれをささげて入堂する。手炉は寺の誰でも出入りできる場所にあり、、それにあらかじめ香を焚き、雑役の者がそれを僧堂の前に具えておいて、施主が入堂するとき、知客の指図によって施主に渡す。入堂する時には、知客が先に立ち、施主が後ろに従って、僧堂の前門の南側から入る。(道元:正法眼蔵・看経)
原文「現在仏祖の会に、看経の儀則それ多般あり。いはゆる、施主入山請大衆看経あるいは常転請僧看経あるいは僧衆自発心看経等なり。このほか、大衆為亡僧看経あり。施主入山請僧看経は、当日の粥時より、堂司あらかじめ看経牌を僧堂前および諸寮にかく。粥罷に拝席を聖僧前にしく。ときいたりて、僧堂前鐘を三会うつ、あるいは一会うつ。住持人の指揮にしたがふなり。鐘声罷に、首座大衆塔に袈裟、入雲堂、就被位正面而坐。つぎに住持人入堂、向聖僧問訊焼香罷、依位而坐。つぎに童行をして経を行ぜしむ。この経、さきより庫院にととのへ、安排しまうけて、ときいたりて供達するなり。経は、あるいは経函ながら行じ、あるいは盤子に安じて行ず。大衆すでに経を請して、すなはちひらきよむ。このとき、知客いまし施主をひきて雲堂にいる。施主まさに雲堂前にて手炉をとりて、ささげて入堂す。手炉は院門の公界にあり。あらかじめ装香して、行者をして雲堂前まうけて、施主まさに入堂せんとするとき、めしによりて施主にわたす。手炉をめすことは、知客これをめすなり。入堂するときは、知客さき、施主のち、雲堂の前門の南頬りいる。」