「看経の作法5聖節の看経」「聖節(しんせつ)の看経というのがある。たとえば、今上の陛下の誕生日が、もし正月の十五日とするならば、まず十二月十五日から聖節の看経がはじまる。当日は上堂がない。仏殿の釈迦仏まえに、床几を二列にして並べる。つまり、東西に向かいあって、南北に長く並べる。東西の床几の間に盤台をおいて、その上に経を置く。金剛般若経・仁王経・法華経・最勝王経・金光明経などである。堂中の僧を、一日に幾人ときめて、昼食前に点心ををおこなう。あるいは、麵一椀、羹(あつもの)一杯をすべての僧に供する。また饅頭六、七箇、あつもの一杯をすべての僧に供することもある。饅頭も椀に盛り、箸をそえるが、粥はそえない。それを頂くときは、看経の座についたまま、すこし座をずらして頂く。点心は経を置いた盤台に並べる。別に卓子をおくことはない。点心をたべる間は、経は、盤台におく。点心がおわると、僧はそれぞれに座をたって、口を漱ぐいで、また座にかえる。そしてまた看経をはじめる。看経は、朝食がおわってから、昼食にいたるまで続けられる。昼食の合図の太鼓とともに座を立つ。その日の看経はそれで終わる。その初めの日から、「建祝聖道場」(けんしゅくしんどあじょう)と書いた札を仏殿の正面のひがしの薝(ひさし)にかける。黄色の札である。また仏殿の中の正面の東の柱には、聖節を祝う趣旨を紙に書いた札をかける。これも黄色である。住持の名は、紅紙あるいは白紙にかく。その二字を小さな紙片に書いて、札のおもての年月日の下に貼る。そのようにして看経して誕生の日にいたり、そこで住持が上堂して聖節を祝するのである。それが古来からの例であって、いま盛んに行われている。(道元:正法眼蔵・看経)

原文「聖節の看経といふことあり。かれは、今上の聖誕の「仮令もし正月十五日なれば、先十二月十五日より、聖節の看経はじまる。今日上堂なし。仏殿の釈迦仏のまへに、連牀を二行にしく。いはゆる、東西にあひむかへて、おのおの南北行にしく。東西牀のまへに台盤ををたつ。そのうへに経を安ず。金剛涅槃経・仁王経・法華経・最勝王経・金光明経等なり。堂裏の僧を一日幾僧と請して斎前に点心をおこなふ。あるいは麵一椀、羹一杯を毎僧に行ず。あるいは饅頭六七箇、羹一分、毎僧に行ずるなり。饅頭これも椀にもれり、はしをそへたり、かひをそえず。おこなふときは、看経の座につきながら、座をうごかずしておこなふ。点心は、経を安ずる台盤に安排せり、さらに棹子をきたせることなし。行点心のあひだ、経は台盤に安ぜり。点心おこなひをはりぬれば、僧おのおの座をたちて、漱口して、かへりて座につく。すなはち看経す。粥罷より斎時にいたるまで看経す。斎時三下鼓響に座をたつ。こんにち看経は、斎時をかぎりとせり。はじむる日より、建祝聖道場の牌を仏殿の正面よの東の薝頭にかく。是黄牌なり。また仏殿のうちの正面の東の柱に、祝聖の旨趣を障子牌にかきてかく。是黄牌なり。住持人の名字は、紅紙あるいは白紙にかく。その二字を小片紙にかきて、牌面の年月日野下頭に貼せり。かくのごとく看経して、その御降誕の日にいたるに、住持人上堂し、祝聖するなり。これ古来の例なり、いまにふりざるところなり。